卒寿小論 9 鮎にひき <川柳>
鮎二ひき暫く焼かず皿の上 前田雀郎
妻の妹が日本画をやっていて、毎年の展示会に作品を出品していた。
毎年作品展の鑑賞に参加するのが年中行事になっていた。
私は用事を思い出して展示会場を出て、廊下から電話を掛けた。用事を済ませて展示場に戻ろうとしたら、歳の頃なら56・7という背広姿の紳士が妻に話しかけていた。
私はまだ見ていない作品の方に回って日本画の鑑賞をした。みなさん素人なのに見ごたえのある作品ばかりでいつものことながら感心してしまう。
話し終えたのか、背広姿の紳士が妻のところから離れていった。
妻は満足そうな笑顔で私を迎えた。
「貴女も作品を出しているのですか。」
「いいえ、妹が出品しているので観に来ましたの。」
「貴女が立っているだけで絵になります。」と。
60代に入っているのに10歳は若く見られる上に「立っているだけで絵になる。」とは、素晴らしい表現である。妻の笑顔に納得。
梔子(くちなし)
季節の花300より
花言葉は「洗練、優雅」「喜びを運ぶ」
鮎二ひき暫く焼かず皿の上
容姿端正な二匹の鮎。焼くに焼かれず眺めいる。いい姿、いい色。
参 考
前田雀郎(1897~1960)、戦後川柳六大家の一人。
『栃木県宇都宮市に生まれ、宇都宮商業卒業後上京して阪井久良岐の門を叩く。都新聞社に入社。『都新聞』に川柳欄を新設。その後川柳誌『みやこ』を創刊する。俳諧味のある作品が多く、川柳の研究にも熱心で、多くの学術書を残した。門下から研究者が多く輩出しています。』
おそろいをきせても家の子が目立ち
子や孫に対する爺ちゃん祖母ちゃんの気持ち。わかるなあ
学校は面白いかと子に酌がせ
秋風を覗いて帰る曲り角
菜の花に内田百閒昼寝する
萩咲けば思い出される咳一つ
昭和30年の作品。剣花坊忌の献句。井上剣花坊は山口県萩の士族。