卒寿小論 313 知ったふりと知らぬふりは
知ったふりと知らぬふりは、どちらが笑いを取るのだろう
犬はなぜ片足あげるか
知ったふりが言う。
「神代には犬の足三本あり、いかにも不自由さに諏訪の明神に願えば、不憫と思し召され、五徳や鍋の尻は三本でもよかろうと、その一本を下され、それより犬の足は四本になった」
一座の人聞いて、
「それはかつて聞かぬこと、何の書に見えます。証拠があるか」と言えば、
「その証拠には明神から下されし足ゆえ、大事がって、犬の小便するときは片足上げる」
(初音草噺大鑑)
節穴の虫
尼さんたちが寄り合い、物語りて遊ぶところへ、いたずら者行きて、との節穴よりみごとなる男のものをニョッと出す。あるじの尼これを見つけて、
「何やら知らぬ虫メ出た。そこの火ばしを焼いてよこしなさい。はさんで捨てよう」
火ばしの音を聞き、かの物を引っこめると、尼うろたえて、
「オヤ、ここにあったまらがない」
(きのふは今日の物語)
月とすっぽん
友だちと天王寺へ詣でての帰りに、近ごろこしらえた妾宅へ寄ってくれと誘われて、行って見ると色の黒い尻の大きな下女とおぼしき女が出てくる。しまって置かずに出しなされと言えば、あれが妾だと聞かされ、
「貴様のお内儀は町内きっての美人、それにくらべたら月とすっぽん、がてんがまいらぬ」
「サアそのすっぽんの味を、貴公はご存じないのじゃテ」
(噺雛形)
いつの世も「ほら吹き」と「カマトト」がしのぎを削っている。
さてと、ほら吹きとカマトト、どちらが笑いを取る。