卒寿小論 307 きのふは今日の物語
確かに江戸笑話集の中では、「きのふは今日の物語」集がダントツに猥談話が多い。
政治権力に力があるときは、猥談話で無難に笑いを取ろうとする傾向があるようだ。風刺のきいた気の利いた笑いは影をひそめる。
例え無難な猥談話でも度が過ぎてくると締め付けが起こって姿を消していく。
性道徳に影響を及ぼすような大衆への浸透は権力側が一番嫌うところである。
まあ無難な下ネタ小咄を「きのふは今日の物語」から紹介してみよう。
タイミング
ある人の女房、腹を再々痛がり、そのたびに針立てをよぶ。ある時、女房をあおのけにねせて、きょうはどこが痛うござると問えば、下腹という。
心得申したと臍の下に針を立てんとそろそろ探るところへ、まだら猫が来たのを見て、
「さてもさてもよい毛や。これほどの毛はまたとあるまい」
というのを聞き、亭主その後この針師を寄せつけなんだ。
長短どっち
「きょうの談義はご婦人がたが多いによって、女人成仏のお話を申そう。ただし、ていねいに話せば長うなるし、あらましを申せば分かりにくくなる。どちらにするか、みなさんの望み次第にいたそう」
といえど返事をする人なし。
「ご婦人がたは長いが好きか、短いがよいか・・・」
と聞くと女たち一度にどっと笑う。長老キッとにらみつけて、
「かたがたの気のやりようがよろしくない」
大 好 物
長老、病あつく今を限りと見える。弟子檀家あつまり。
「さてもお気の毒。かくなるうえは毒断ちもいらぬ」と、枕もとに酒さかずきを置き、
「コレコレ、目を開きてご覧下され、いつものお好きな物に候」と言えば長老目をあいて、
「べべか」
参考 ある地方では、女の隠しどころを「べべ」と言うらしい。?
性道徳に影響を及ばすような小咄ではない。このレベルなら発禁処分にするほどのことはない。
社会道徳や権力を脅かすような「笑い」とはどんな笑いであるのか。発禁落語によい例があるようだ。