卒寿小論 178 移り香こぼす袖のほころび <前句>
元禄 前句付け「5」 (前句)移り香こぼす袖のほころび
奥様の爪紅(つまべに)残る下女が股(もも) 移り香こぼす袖のほころび
参考 爪紅=江戸時代のマニキュア
前句=男の移り香の残る袖のほころび
年季奉公にやって来る下女のなんとまあみずみずしい太股。
それだけでも憎いのに袖がほころぶほどの抵抗をして逃げたのであろうか、この移り香は誰の香。
もしかして「だんな」きっとそうよ。内の旦那に違いないは、まあ憎らしいこの太股。とつねった跡が乱れた着物の裾から見える。
妾が公的に認められていた江戸時代は、年季奉公に来た下女を妾として囲う旦那衆が多かったようである。
そのことを百も承知の奥方は細心の注意を払いながらも大変な焼餅焼きであった。暴力的な攻撃も辞さなかった。それが下女の太股に残っている奥方の爪紅の跡である。凄まじいまでの女の闘い。
江戸時代に公的に認められていた妾制度とはいえ武士の世界ではお世継ぎの問題が絡んで来るので厳しい制約が掛けられていた。
武士だけでなく、豪商ともなれば跡取りの問題が絡むだけにお家騒動になりかねない。
仙人の力おも失くしてしまう「乙女の太股」は、仙人以上の力を持っていたのである。
牡丹 季節の花300より