卒寿小論 312 徹すれば楽しいね
吝(しわい)やの金槌
吝(しわ)い男、隣へ金槌を借りにやると、
「お安い御用なれど、あいにくうちにござりませぬ」という。
「サテサテ吝いやつかな。コレ丁稚、仕方がないから、うちのを出して使え」
(福禄寿)
ケチもここまで徹すと愉しくなるなあ。
遺 言
親父、臨終の遺言に、かならず物入りするな、夜のうちに寺へやってくれ、という。親類集まり、
「そうはなるまい、きょうのうちにとはいくまい」と言えば、親父起き直り
「そんならモウ死なぬ、死なぬ」 (茶の子餅)
ロハの薬
宗恵という金持ち、生涯のあいだいかなる病(わずらい)ありとも、ついに薬を一度ものまず。老衰していまわのときに、知人が牛黄円(ごおうえん)という名薬を与えんというに、少しも口をあかず、歯を食いしばりおるときに、
「この牛黄円(ごおうえん)は銭はいらぬ。ただじゃ」と言うて聞かせたれば、口をガバとあいてのんだ。 (醒酔笑 広)
江戸の根性、あっぱれ、あっぱれ。楽しいよ。