卒寿小論 345 女ごころ
なんの二百石 <可愛い女房 いいねえ>
同役のお内儀、焼きもちを焼いてならぬ。家中の若侍ども、あの内儀に気をもませてやろうと、亭主と申し合わせ、百石に一人ずつ妾を置けとのお触れ書が出たと、まことしやかに言えばかの内儀腹を立ち、
「お触れのおもむき、ご承諾なされますか」
「オオ承知とも承知とも、拙者は三百石とるから、妾をもうふたりかかえずばなるまい」
内儀、髪を逆立ておもてへ出る。
「こりゃ、どこへ行く」
「お役所へまいります」
「何の用がある」
「二百石返してまいります」
(売集御産寿)
コケット(フランス語で、男好きのするなまめかしい女性) <男はこれに弱いのよ>
「お帰りならお送りしましょう」と茶屋女、十二三の小女をつれて客を送る道で、
「アレ犬が、オオこわ」と客にしがみつく、小女これを見て、
「わたしゃひとりのときは犬がこわい。ねえさんはお客と連れだつと、大そう犬を怖がる」
(噺雛形)
新 解 釈 <女ごころの裏返し>
亭主、蜜夫をまッ二つに切ると、女房、
「わたしもともに切りなさい」
「そうはいかぬ」
「お慈悲に殺してくだされ」と手を合わせれば、
「あの世で添わせてはならぬ」 (近目貫)
恋わずらい <ごもっともなれど、それができれば>
ひとり娘の恋わずらい、さきの人はもはや女房もあり、何ともせんかたなく、痩せ衰えければふた親の嘆き言わんかたなし。
山出しの下女これを聞き、それにはよいしかたがありますと言えば、ふた親大きに喜び、
「そなたは娘の命の親じゃ。どうすればよいか」
「その恋しいと思うお人を、忘れてしまえばよい」 (軽口春の山)