syougoのブログ

余命ゼロ年代を生きるために

卒寿小論 23 5月のレクイエム 「う そ」 <掌編 2>

 5月の連休に喜寿を祝う同窓会に参加した。


 古希の同窓会が最後の同窓会になると思っていたのに、あれから7年過ぎて仲良し3人組が元気で喜寿の同窓会を迎えた。
 今回の同窓会は皆の胸の内に最後かもしれないという思いがよぎった。


 小学校から高等学校まで同級生として柔道や陸上を共にしてきた。卒業しても林 和生を中心に博多で毎年会っていた。和生は博多で粋な食堂を経営していた。
 天真爛漫の和生の周りには。多くの人が集まっていたが中でも同級生の武田三郎と藤本隆史は大の仲良しで強い明るい絆で結ばれていた。


 和生は博多から高速に乗り、新しく開通した高速を気持ちよく走っていた。


郷への入り口を左折してインターを降りると道の駅があり思わぬ数の車が駐車していた。 しばらく走ると右手の森にヤマモモの花がぎっしりと木にしがみついていた。


いつもならこの森を過ぎると入江が一望できるのに急にトンネルに入りそこを抜けるともう街並みが見えてきた。しばらく走って、今どこを走っているのか位置感覚が分らなくなった。すぐに三ちゃん(武田三郎)に電話を入れた。


「三ちゃん。俺、新しい道で方向が分らんのよ。インターを降りてトンネルを抜けて右手の方に町が見えるんや。」
「カー坊、そこを右に曲がると昔の道に出るから、それをまっすぐに行くと今日の会場の公民館につく。公民館まで俺行っとくけん。」
「三ちゃん。ありがとう、また後で。」


 公民館の前で、現職であった時の社会福祉課課長の武田三郎が待っていた。定年退職をして20年近くになるのに少しも変わっていなかった。あの時代のままの三ちゃんが手を上げて迎えてくれた。


 三ちゃんはすぐに藤本隆史に電話を入れた。
「ターやん。今、カー坊着いたけん。道ん駅じ待ちょる。」


 久しぶりに三人は同窓会が始まるまで道の駅の中にある鮨屋で盛り上がった。カー坊はアルコールが入ると真っ赤になる体質でコーヒーを注文し、三ちゃんとターやんは、日本酒を注文した。二人とも底なしの酒豪で毎日酒を欠かしたことはなかった。


 三人とも健康そのもので屈託のない笑い声が道の駅いっぱいに広がった。


 5月になると日が伸びて、6時はまだ真昼であった。公民館の右手のほうに町の木の「山桃」がぎっしりと花をつけ、左手の方に回ると海岸線に沿って町の花のはまゆうが海の青をバックにさわやかな緑を海風にやさしくゆれていた。


 こうやって三人で海を眺めると学生時代にかえる。コーヒーと日本酒でいい気分になった三人は正に至福の時を生きている。


 一通り同窓会の儀式が終わると無礼講なかくし芸や特技が飛び出し会は一気に盛り上がる。


 三ちゃんの特技は即興当ぶりの踊りでターやんは歌謡曲を地元の方言で歌うことであった。


 会も終盤に近付いて三ちゃんとターやんが舞台の中央に立った。


 山口洋子作詞、平尾昌晃作曲、中条きよしの「嘘」のイントロが流れて来た。
 三ちゃんは少し小柄で役者にしたいような顔立ちで、ターやんは大柄の堂々とした男らしい男である。
 三ちゃんも年季が入ってその立ち姿といいイントロの振り付けといい当ぶりの天才としか言いようがない。
 ターやんが歌い始めた。第一声の柔らかくてうまいこと。と、思った瞬間会場が笑いの渦に巻き込まれた。


 折れた煙草のすいがらじ  おまえん嘘がばれるんじゃ
 誰かいい人  出来たんか  出来たんか
 あー半年余りん 恋なのに あーエプロン姿が ようにあう
 爪もそめんで いちょくれと 女があとから 泣けるよな
 哀しいうそんつけるやつ


 歌がうまいのに所々方言にして、その方言のところを三ちゃんが見事に当てぶりで微妙に変えていく。
 カー坊は手を叩きながら、「ああ、天才じゃ。」と、声を出していた。


 会場は爆笑のうちに終わり、それぞれに二次会へと流れた。


 次の年にカー坊が突然くも膜下出血で倒れ寝たきりの状態になった。
 それに続いて、三ちゃんの癌が発見され癌の場所が悪いので手術ができないということになった。
 ただ一人ターやんが元気であった。


 78歳で元気なターヤンが誤嚥性肺炎で急逝して、続いて三ちゃんの容体とカー坊の容体が急変して亡くなった。


 家族やこの三人を知る人たちはこんなことがあるのかと驚きを隠せなかった。


 傘寿の同窓会をもって最後にすることになった。5月のレクイエムに参加者全員で「嘘」を方言で歌うことにしている。


         

             季節の花300より 山桃

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